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女性に寄り添うファッションブランド M.M.LaFleur(前編)

大橋秀平
2020/01/23 投資先情報

2020年1月、米国サンフランシスコ発のD2CシューズブランドAllbirdsが日本に進出しました。日本第1号の原宿店舗は、Allbirdsの日本進出を待ちわびたファンやファッション関係者で大行列だったとのニュースが出回っていました。日本でもD2Cという言葉がここ数年のトレンドワードになってきたように感じます。クールジャパン機構でも、D2C領域の企業2社に投資をしています。1社目は2019年7月に公表したワインのD2C企業Wincです。投資後の現在はD2Cモデルかつ米国現地目線で企画された新しいSakeの販売に向けて着々と準備を進めています。もう1つのD2C企業が今回紹介するM.M.LaFleur(以下、MM)です。MMの売れ筋の服の多くに日本国産のテキスタイルが使用されており、MMのウェブサイトやショールームのスタイリストがその点についてしっかりと発信しています。規模が大きく高い成長率が見込まれる米国ファッション市場で独自のポジションを確立しているMMというブランドを通じて、国産テキスタイルの海外需要開拓を目指すことが本件におけるクールジャパン機構の狙いのひとつです。

MMは2013年創業の若い会社ですが、D2Cモデルを採用してファッションの最先端を行くニューヨークで急拡大しているファッションブランドです。ニューヨーク発のブランドではありますが、実は二人の日本人女性が事業を推進しているブランドです。その二人というのがCEOのラフルアー宮澤沙羅さんとチーフクリエイティブオフィサーの中村美也子さんです。MMの創業前、当時金融機関に務めていた宮澤さんが、着心地がよく、しかし金融業界で求められる水準のフォーマルさがある服がほしいと感じていたところ、中村さんがデザインの力で宮澤さんの課題を解決したというのがMMの創業に至ったエピソードです。

Direct to Consumer(D2CあるいはDTC) の定義は色々と言われています。米国のCB Insightsにおける定義は、以下のとおりです。

Direct-to-consumer (or D2C) companies manufacture and ship their products directly to buyers without relying on traditional stores or other middlemen.

「作ったものを顧客に直接売る」、ここでのD2Cの定義は非常にシンプルなものです。ビジネスモデルがシンプルであるが故、何を売るかが重要、言い換えれば明確なブランドコンセプトが求められる、というのがD2Cブランドの特徴であると私は解釈しています。

米国では既にユニコーンと呼ばれる時価総額が10億ドルを超えるD2C企業が数多く存在します。個人的な見解ではありますが、ユニコーンにまで成長したD2C企業はどれも一言で言えるブランドコンセプトがあるように思います。例えば、冒頭で紹介したAllbirdsは、管理が徹底された牧場のウールのみを使用することでエシカルなブランドであることを顧客にアピールしています。他にもスーツケースブランドのAwayは、顧客が自分の好みや旅行の仕方に合わせられるように色展開を豊富に(12色)用意したり、充電器付きの商品を開発したりする等、これまで物を運ぶという「機能」だけが求められていたスーツケースに「ライフスタイル」という観点を持ち込みました。

M.M.LaFleurというブランドを表す一言は何でしょうか。「働く女性のパートナー」だと私は考えています。働く女性にとって何が課題なのか、どうすればその課題が解決できるのか。この問いについて、真摯に向き合っているのがM.M.LaFleurです。女性が仕事で輝くのをサポートするためにMMの服を着てもらいたい。だから、MMの展開するビジネスはすべてこの文脈で説明することができます。例えばMMの商品の特徴は、シワにならない、長時間着ていても疲れない、けどフォーマルに見える、ストレッチが利いている、自宅で洗濯できる、細かなところでは食事の後でもウエストのラインが目立たないデザイン、などに代表されます。すべて働く女性目線のデザインになっているのです。他にもMMが展開するショールーム型の店舗では、お客様がMMのスタイリストと話しながら、試着しながら、服を選ぶことができます。MMのお客様は決してファッションモデルになりたいような人たちばかりではありません。常に仕事のことを考えていて、正直最近のファッショントレンドはよく分からない、という方も多くいらっしゃいます。そういったお客様にはMMから積極的にファッションの提案をすることで、働く女性の抱える悩みを解決しようとしています。ショールームに展示された一週間の着回し提案は、日本の女性ファッション誌を見て育った宮澤さん・中村さんらしいアイディアのように思います。

2019年秋には、「お客様への提案」がより進化してOMAKASEというサービスにつながりました。OMAKASEは、文字通り日本語の「おまかせ」に由来しています。職場でプレゼンがある、締切に間に合わせるために気合を入れたい、クリエイティブなアイディアが求められる会議に参加する、仕事終わりにネットワークイベントがある等それぞれのシチュエーションにあったコーディネートをまとめてセット購入できる仕組みとなっています。例えば下記写真は、パネルディスカッションに参加するときのコーディネート例です。

また、MMのショールームはお客様とのコミュニティづくりにも一役買っています。例えばニューヨークのショールームには下の写真のようなイベントスペースが用意されており、定期的にMMのお客様を招待したイベントが開催されています。イベントに来てもらい、ユーザーであるお客様の意見を吸い上げ、彼女たちの気持ちを理解することで、既存商品の改良や新商品の開発につなげ、それがさらなる熱烈なMMファンを作ることに役立っています。

また、最近では新しい試みとしてMM To Goという小規模の小売店舗をオープンしました。MM To Goは、仕事で忙しい女性でも休憩時間やランチの行き帰りにちょっと立ち寄って買い物ができるようにと、ショールームとは違ったサービスを提供しています。去年の9月にニューヨークのオフィスビル街(Brookfield Place)に店舗を開店。今年の2月には、アメリカで2番目に大きい駅、ワシントンDCのユニオン駅に進出する予定です。ショールームは商品を選ぶ場ですが、MM To Goでは選んだ商品をその場で買って持ち帰ることができます。働く女性が何を求めているかを真剣に考え、ヒアリングをした結果できたのがこのMM To Goです。MM To GoでMMのことを知り、その後ショールームにお越し頂くお客様も増えていると聞いています。

D2Cというと、どうしてもEコマースがメインのように聞こえますが、MMのショールームやMM To Goのように、会社の成長に合わせて徐々にリアル店舗に進出する企業が増えています。いずれにしても、卸売商社やセレクトショップを経由せずに直接お客様とコミュニケーションを取り、お客様の声を吸い上げる、という点は変わりません。ちなみにMMのリアル店舗であるショールームとMM To Goは、現在ニューヨーク、ワシントンDC、ボストン、サンフランシスコ、シカゴ等で合計8店舗展開していますので、アメリカにお越しの際は是非お店に立ち寄ってみてください。

クールジャパン機構の投資先であるMMについて、今回はD2Cモデルの肝となるブランドコンセプトの観点からお話しました。前編はこのあたりして、後編ではクールジャパン機構がMMに投資を決めた理由(クールジャパンアングル)についてお話させて頂ければと思います。

(後編に続く)

大橋秀平| 投資戦略グループ ヴァイスプレジデント

PwCあらた監査法人およびDeloitte Amsterdamにて会計監査業務に従事した後、2016年12月クールジャパン機構へ入社。M.M.LaFleur、Winc、500 Startups Japan等を担当。慶應義塾大学商学部・同大学院商学研究科修了

参考:クールジャパン機構 投資決定時プレスリリース

出典:
Business Insider(1)
Business Insider(2)
CBINSIGHTS
Forbes
Medium

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