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中国消費者と酒蔵の「一期一会」を大切に    ―EMW日本酒担当者の挑戦—(前編)

2020/12/10 投資先情報

EMW(イーエムダブリュー)」グループは、香港・マカオを含む中国でも有数のワイン卸売事業者です。現在世界 15 ヵ国 80 ワイナリーと独占販売契約を結び、中国150以上の都市に高級ホテルやレストランを中心とする 3,500 以上の顧客ネットワークを有しています。

2019年6月、クールジャパン機構はEMWの株式を取得し、同社の経営陣・従業員とともに、同社が持つワインの販売・流通プラットフォームに日本酒をラインナップとして加え、中国消費者に広く届けるための挑戦をスタートしました。(プレスリリースはこちら

今回、EMWの上海オフィスを拠点に、日本酒の輸入や中国各地への販売促進に奔走するナイト・フーさんに、日々の業務や日本酒への思い、中国消費者の反応などについて、オンライン・インタビューで話を伺う機会を得ることができました。(内容は2020年11月現在、敬称略)

日本で酒蔵をまわり勉強した日本酒を、一生の仕事に

Q. EMWの日本酒担当として、日々どのような業務をされていますか。

主に3つあります。1つ目は酒蔵と日本語で直接コミュニケーションを取り、実際にEMWで取り扱いたい銘柄を輸入すること。2つ目は輸入した銘柄を、中国6都市(上海、北京、深圳、広州、成都、重慶)および香港・マカオの支店にいるEMWのセールス担当者と連携し、EMWの従来からの取引先である中国全土の高級ホテルやレストラン、小売店舗に卸すとともに、ECで販売すること。

3つ目が啓発活動です。これはEMWがワインで強みとしてきたところで、具体的にはお客様を集めて商品説明イベントを開いたり、一般の方々に対して教育プログラムを開催したりしています。これを日本酒でも行っており、例えば、イギリスの酒ソムリエ協会(SSA)と提携して日本酒に詳しい方を育成するなどしています。EMWの主な顧客は高級ホテルやレストランが多いですが、これまで日本酒に接したことがない人たちに日本酒の作り方・種類・飲み方を理解してもらい、日本酒の消費市場のすそ野を広げるために活動をしています。

EMWで日本酒を専門に扱う責任者ですが、販売やイベント開催、教育のところでは、各担当者と連携しながら進めています。ただ、EMWはずっとワインを取り扱ってきましたので、必ずしも日本酒に詳しい担当者ばかりではありません。社内に対する日本酒の研修も私が行っています。各拠点に足を運び、担当者に日本酒について詳しく説明するとともに、時には一緒にお客様を訪問し、売り込み方を実地で覚えてもらうようにしています。

▲四川料理とのペアリング・ディナー (中国・成都、2020年9月)

Q. 日本語も堪能で、日本酒に関する知識も相当なものと思いますが、どのように勉強されたのでしょうか。

私は上海出身で、元々上海の5つ星ホテルでバーテンダーをしていました。そこで様々なお酒に触れてきましたが、ある日たまたま日本酒を味わう機会があり、その味が印象的でとても気に入りました。今から約10年前のことですが、当時中国では日本酒の正しい知識を市場でもインターネットでも得ることができませんでした。

そこで2014年、一部日本酒や焼酎を取り扱う酒類専門商社に転職し、仕事として本格的に日本酒を勉強することになったのです。知れば知るほど興味が湧いてきて、2016年には日本に1ヵ月間滞在し、各地の酒蔵をまわり、SSIの利き酒師や日本酒講師の資格を取得しました。日本語はホテルで働いていたときの日本人スタッフとの会話や、大好きなゲームで習得しました(笑)その後2019年、EMWに日本酒担当として入社し、現在に至ります。本当に日本酒が大好きで、一生の仕事にしたいと思っています。

米に馴染みの深い中国人がすぐに分かる日本酒の美味しさ

Q. 今、日本酒は中国の方々にどのように受け入れられていますか。

米が主食の中国の人たちは、米の優しい味わい、甘み、香りに馴染みが深く、胃袋も慣れているので、日本酒を飲めばすぐに美味しさが分かります。また、飲みすぎても翌日あまり辛くないと言われていて、女性二人で一升瓶2本を空けたという話も聞いたことがあります(笑)正直、体質的にはワインより受け入れやすいのではないかと個人的には思っています。

しかし以前は、日本酒の輸入業者も少なく、日本酒は日本食レストランだけで飲むものでした。スーパーでは有名な「月桂冠」や「松竹梅」などが売られていましたが、あまり多くの銘柄は見かけませんでした。あくまで私の感覚ですが、中国の人たちが色々な銘柄の日本酒をよく飲むようになってきたのはここ4年くらいでしょうか。今は高級な日本食レストランや輸入品専門スーパーを中心に扱う銘柄が増えていますし、近年は中国の訪日旅行客が激増していましたので、彼らが日本で美味しい日本酒を知り、買って帰ってきたことが背景にあるかと思います。

今、私たちは日本食だけではなく、特に中華や洋食のレストランでも広く扱ってもらえるように奮闘しています。ちょうど先週、成都の四川料理レストランから日本酒を扱いたいと連絡が来ました。これは今年の9月に私たちが成都で四川料理とのペアリング・ディナーを開いたことがきっかけで、そこに参加した担当者が辛い四川料理に意外と日本酒が合うことを認識してくれたのです。やはり皆、飲めばすぐに分かってくれるのですが、以前はそのような機会さえありませんでした。

▲EMWが開いた四川料理とのペアリング・ディナー(中国・成都、2020年9月)

これからの中国は多様な日本酒が求められる時代に

Q.中国の方々にも受け入れられやすくなっている日本酒ですが、EMWの成長戦略にとってはどのような位置付けなのでしょうか。

今後数年は日本酒が中国に広く普及するためのとても大事な時期だと思います。1990年代に一度中国で日本酒ブームがありましたが、当時は人々の日本酒に関する知識も少なく、輸入品だったらなんでもいいという雰囲気がありました。そのブームは失速しましたが、今は第2のブームだと思っています。中国で様々な銘柄が流通し、人々の知識も増え、実際に日本に通った人たちがブームの中心にいます。これからの中国はもっと多様な日本酒を求める時代になると思います。

そうした背景もあり、日本酒はEMWにとって最も重要なプロジェクトの一つになっています。経営陣から現場の従業員まで、日本酒は必ず成長する市場と重要視しています。EMWの経営層が揃う重要会議の資料の中でも日本酒の市況や戦略などがかなりの部分を占め、喧々諤々と議論されています。

Q. EMWは今年9月、「櫻正宗」「利休梅」「月桂冠」「米鶴」「高清水」「陸奥八仙」の6銘柄、計23商品の取り扱いをスタートしました。このラインナップから始めた理由は何ですか。

日本酒は嗜好品なので、人それぞれ好みが違います。銘柄・商品を選んだときは、飲む人の様々な好みに合わせられるよう、バランスを考えました。例えば、兵庫県の「櫻正宗」はまさに伝統的な味で、初心者にはハードルが高いけれど、ある程度日本酒を飲んだことのある方には大変美味しいと言われます。一方、日本酒を飲み始めたばかりの方には青森県の「陸奥八仙」がフルーティかつフレッシュで飲みやすく、特にワインが好きな方は同銘柄のワイン酵母で作られた日本酒に興味津々になります。

また、6銘柄の中でアルコール度数が比較的低い商品もいくつか選びました。これは日本酒の15度というワインより高めのアルコール度数に抵抗がある方に、まずは12~13度のものから始めて頂くためです。そうして味の特徴に馴染んで頂いたうえで、楽しめる日本酒の幅を広げていって頂こうとしています。

さらに言えば、地域によっても好みが違います。例えば、四川では辛い料理を食べるので甘くてフルーティな日本酒、また北京など北の方では、味が濃くて塩辛い料理が多いので辛口の日本酒が受け入れられやすいです。一方、広州や香港・マカオなど蒸し暑いところでは冷やしてさっぱり飲める日本酒が好まれます。その意味でも、EMWの各拠点の担当者と連携して、地域による人々の好みを考えながら売り込む日本酒を決めています。昔は「中国人と言えば大吟醸だけを飲む」という印象をお持ちの日本の方も多かったかもしれませんが、今の中国では日本酒に多様性がある方がいいと思っています。

後編では、EMWが9月に中国各地で開いた日本酒の商品説明イベントでの中国消費者の反応、クールジャパン機構との連携、ナイトさんの今後の目標などについてお伝えします。

(後編につづく)

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