米国の女性たちに向けて、オンでもオフでも着心地の良い、洗練された洋服を―。2名の日本人女性により2013年に創業されたニューヨークのファッションブランド「M.M.LaFleur(エムエムラフルアー)」は、ウォッシャブルで伸縮性に優れるなどの高機能、かつハイクオリティな商品を展開するD2Cブランド(*1) で、米国ファッション市場でも独自のポジションを確立しています。
(*1) D2C:Direct to Consumerの略。中間業者を介さず消費者に直接届けるビジネスモデル
「M.M.LaFleur」は商品に日本の素材・テキスタイルを採用しています。2019年10月、クールジャパン機構は日本の技術・テキスタイルから生み出されるファッションの魅力を米国女性に広く発信するとともに、日本各地の生地・素材メーカーとの取引拡大を支援するため、「M.M.LaFleur」に出資しました(プレスリリースはこちら)。以来、「M.M.LaFleur」と日本各地の繊維メーカーとの取引拡大に向けてビジネスマッチングを推進してまいりました。
「M.M.LaFleur」は、クールジャパン機構の行うビジネスマッチングを通して山形県の老舗ニットメーカー「米富繊維株式会社」に出会い、今年2月、同社のニットテキスタイルを活用したジャケットを発売しました。
今回、「M.M.LaFleur」創業者の一人で、クリエイティブ部門の責任者である中村美也子チーフクリエイティブオフィサーと、米富繊維の大江健代表取締役社長の対談が実現し、商品開発における苦労や日本の素材・テキスタイルが持つ魅力、今後のファッション業界についてお話を伺いました。(内容は2021年1月現在、敬称略)
Q. 両社のコラボレーションはどのような経緯で実現したのでしょうか。
中村:もともと独自の技術を持ち、日本ならではの開発ができる繊維メーカーを探していた中で、クールジャパン機構が私たちの「Jardigan(ジャーディガン)」(*2)のコンセプトに合うのではないかと米富繊維を紹介してくれたのがきっかけです。米富繊維の東京のショールームに伺ってサンプルを一目見ただけで、“特別”な雰囲気が前面に出ていて、強烈な印象を受けました。そこからお仕事をご一緒したいと思い、お話を進めさせて頂きました。
(*2)ジャケットとカーディガンを融合させ、伸縮性と皺にならないことが特徴の「M.M.LaFleur」オリジナルの商品カテゴリー。
大江:「M.M.LaFleur」はクールジャパン機構の出資のニュースで存じていました。海外ブランドのOEMには以前より興味がありましたが、60人程のスタッフの中で英語が話せる人が一人しかおらず、なかなか難しいと踏み出せずにいました。このため、お話を頂いたときは、スタートとしては最適だと思いました。何かあればクールジャパン機構に相談できますし、日本人が経営しているブランドということにも安心感がありました。
中村:米富繊維のアイデンティティであるニットの商品は、制作の難易度が高いカテゴリーです。私たちの商品で一番売れている「Jardigan」も作り上げるまでの過程はとても大変でした。米富繊維はそれを専門にしている点で素晴らしいと思いましたし、私たちのターゲットである米国の女性たちにも間違いなく快適に着て頂けると思いました。
Q. 商品化に至るまでには、どのような苦労がありましたか。
大江:ニットツウィ―ドのテキスタイルは、色合いが複雑なのでブランドに何度も確認する作業が必要です。山形の工場で見て頂くのが一番早いのですが、海外のブランドだとそれも叶いません。メールで伝えるのと、見本を送付して実際に手に取って確認して頂くのですが、それにかなりの時間を要しました。コロナ禍もあり、NYにいる「M.M.LaFleur」のご担当者も在宅勤務なのでなおさらです。
中村:私も現場に行きたいと強く思いました。とても細かいニュアンスの話になりますし、どこまでが出来て、出来ないのかが、現場にいないと分かりづらいです。普通のニットは糸が1~2本のところ、米富繊維のニットは様々な色の糸を組み合わせるので特に難しい。技術者と、商品のアートを理解している人たちが隣合わせで仕事して初めて分かり合える世界なのに、物理的に離れた状態で、しかも時差や言葉の壁もあり苦労しました。
大江:そうですね。ブランドにとっては大した意味ではなくても、こちらがメールの文面を大げさに捉えてしまうこともありました。お互い慣れていないので、相手がどう思っているのか予測がつかない。ただ、少しずつやり取りが形になってくると、こちらもどうしたいかが言えるようになってきました。最初は、物理的な距離や言葉の問題を越えた、心理的な壁も大きかったのかもしれませんね。
中村:その意味では、日本の作り手のことを良く知っているクールジャパン機構に手を繋いで一緒に歩いて頂いて本当に助かりました。そもそも私たちはNYが拠点なので、米富繊維に出会うことすらできなかったかもしれません。海外のブランドと、日本の素晴らしい作り手を繋いで頂くこと自体がとても意味のあることだと思います。
大江:海外のブランドと仕事がしたいと思っている作り手は、日本には沢山いると思います。でも何から始めて良いかわからず、きっかけもない。よっぽどの決断がなければ、そう簡単に踏み出せない。なんでもそうですが、最初の一番高いハードルを乗り越えて、小さくても一歩ずつ前に進めば、それが将来の大きな一歩に繋がります。その意味でも今回良い機会を頂いたと思っています。
Q. 日本の素材・テキスタイルは、海外でどのように受け止められていると思いますか。また、海外展開における課題は何でしょうか。
中村:日本人や日本のものづくりは世界中で信頼されています。私は長く米国で日本人デザイナーとして仕事をしてきて、メリットはあってもデメリットはありませんでした。私自身も日本の商品は真面目だなといつも思います。日本の会社は完成してない物を決して売りませんが、海外では美しく仕上がっていればそれで良しとされるところがあります。ただ、アーティスティックな面でどれほど突き抜けているかというと、日本の商品は確実性や安定性を重視している分、限界があるようにも感じます。例えば、色彩感覚ではイタリアの製品の方が優れていると思うときもあります。そうした中でも米富繊維は色を自由に使っているところが、とても新鮮に感じました。
大江:複数の糸を使って編む技術自体はもともとありましたが、工場の中では特に着目されていませんでした。私が入社してから色のアレンジを始めましたが、極端に派手にしたり地味にしたりしながら、自然に形になっていきました。繊維工場で物を作っている方々は、素晴らしい技術を持っていても、「この素材を使えばこんな素敵な服になる」と意識して発信まで考える機会は決して多くなかったと思います。今はかなりの数のファクトリ―ブランドが出ていて、業界がだいぶ変わってきました。
中村:仰る通り、日本の工場に絶対的に必要なのはコミュニケーション能力だと思います。素晴らしい技術をお持ちの日本の工場の方々とお話していても、商品の最終形をこちらがイメージしやすいようにプレゼンテーションしてくれればもっと魅力的なのにと思うことがあります。工場にノウハウがなければ、外部の方にお願いするのも手だと思います。今はSNSなどもあるので、大げさにプレゼンしなくても、確実に作った物の素晴らしさを伝えることができます。特に最近はリモート環境が普及して、工場のロケーションはあまり重要ではなくなってきました。質の高い物を作り、それを世界中の人が見られるようにすれば、これまで認知されていなかった作り手が有名になるケースが増えてくると思います。日本はその点においてはまだこれからなので、とても楽しみにしています。
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