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「日本の宝であるアニメの真髄をそのままに海外へ」Sentai創業者John Ledford氏講演レポート

2021/04/5 投資先情報

2021年1月、一般社団法人日本動画協会主催「アニメビジネス・パートナーズフォーラム(ABPF)2020」にて、当社投資先である「Sentai Holdings, LLC」(以下、Sentai(センタイ))のCEOを務めるJohn Ledford(ジョン・レッドフォード)氏が米国からオンラインで講演を行いました。この講演はアニメビジネスのマッチング活性化を目的に、業界内の最新動向・事例を紹介することが主旨で、多くのアニメ業界の方々が参加されました。

今回、Sentaiのビジネスやクールジャパン機構とのコラボレーションをご紹介しながら、John Ledford氏の登壇内容についてレポートします。

「Sentai」とは?

「Sentai」は北米で日本アニメ作品のライセンス事業を展開する会社です。自社・他社プラットフォームでの動画配信をはじめ、DVD /Blu-rayなどのパッケージや関連グッズの卸売・ECなど、マルチウィンドウの販売チャネルを持つとともに、買付け後の企画・制作 からローカライゼーション(字幕・吹替)、そしてプロモーションに至るまでの全プロセスをワンストップで実施できることを強みとしています。2008 年の設立以来、北米のアニメライセンス事業者としては最大規模の 700 以上の日本アニメ作品の権利を自社で管理しています。

創業者兼 CEO の John Ledford氏は、同社の前身となる会社での活動も含め約 30年間日本アニメ関連事業に携わり、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズや「ダンまち(ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)」、「メイドインアビス」など、北米で数々のヒット作を育て上げた、言わばパイオニア的な存在です。日本アニメ作品や業界に対する理解と愛情が深く、2019年のアニメ制作会社・京都アニメーション火災を受けて、「京アニは数々の作品を通して私たちに夢、影響、そして楽しみを与えてくれた」と、クラウドファンディングで支援募金を呼びかけた発起人でもあります。

同氏は長年にわたる経験から、北米でのコアな日本アニメファンのコミュニティ形成に成功しており、ファンのこだわりにきめ細かく対応した事業展開を得意としています。例えば、キャラクターが発する日本語の台詞のニュアンスを大切にした自社スタジオでのローカライゼーション(字幕・吹替)や、オリジナル特典付きプレミアム・ボックス・セットの企画、作品の予告編やキャラクタークイズなどのSNS発信、クリエイターを登壇させてファンとの接点を設けるプロモーションイベントの実施などです。

2019年8月、クールジャパン機構は、北米での日本アニメ作品の流通拡大を目指し、「Sentai」の株式を取得しました(プレスリリースはこちら)。昨今の動画配信市場の拡大も背景に海外市場でアニメの需要がますます高まっていますが、Sentaiは日本のアニメ業界にとって、単に配信権を売るためではなく、海外現地向けに作品を大事に育て上げたうえで 2 次利用も含めた海外展開に取り組むための現地パートナーとして、貴重な存在と言えます。

Sentaiとクールジャパン機構のコラボレーション

クールジャパン機構がSentaiの株式を取得してから1年半以上の期間が過ぎましたが、これまで両社で以下のようなコラボレーションを実施してきました。今後も両社でさらなる取組にチャレンジし、北米での日本アニメ作品の流通拡大を推進していきたいと考えています。

Sentaiの経営効率化
 ▶Sentaiの事業の状況や財務の状況を可視化・分析
 ▶上記の分析に基づいた、在庫やコストの適正化

クールジャパン機構の投資先企業とSentaiのコラボレーション
 ▶日本のポップカルチャー関連グッズのECを展開している「Tokyo Otaku Mode(トーキョーオタクモード)」と連携した海外向けプロモーション

クールジャパン機構がコネクションを有するアニメ関連事業者とSentaiのコラボレーション
 ▶日本のアニメや漫画を専門としたソーシャル・ネットワーキング・サービス「My Anime List」における、Sentaiの保有するアニメストリーミングサービス「HIDIVE(ハイダイヴ)」のWebリンクの埋め込み
 ▶今回のアニメビジネス・パートナーズフォーラム(ABPF)2020の講演 など

「アニメビジネス・パートナーズフォーラム(ABPF)2020」での講演内容

2021年1月、John Ledford氏は「アニメビジネス・パートナーズフォーラム(ABPF)2020」で以下のような講演を行いました。(内容は2021年1月現在です。実際の講演内容を要約・編集しています。)

▲オンラインで講演するSentaiの創業者兼 CEO、John Ledford氏

Q. 米国で日本のアニメはどのように受け入れられてきましたか?

初めて話題になったのは1970年代の「ガッチャマン(Battle of the Planets)」です。同時代の作品である「マッハGoGoGo」も米国で「Speed Racer」として愛されました。以降、アニメは10年スパンで成長してきました。1980年代にはVHSテープが登場して家庭用ビデオビジネスが始まり、「ロボテック」「ボルトロン」「トランスフォーマー」などが、また1990年代には「バブルガムクライシス」「となりのトトロ」「銃夢」「エヴァンゲリオン」「セーラームーン」「ハローキティ」「ドラゴンボールZ」などがファンを獲得しました。2000年代になると、それまで男性中心だったアニメファンの男女比率が同じくらいになり、2000年~2010年にかけてはアニメ専門チャンネルの視聴者も増加しました。昨今の動画配信サービスによりさらにアニメファンは増え、思いもよらないほどの規模になっています。

Q. 新型コロナウイルス感染症は、米国の人々のアニメの楽しみ方にどのように影響しましたか?

コロナ禍はアニメ業界に新しい課題やチャンスをもたらしました。実店舗の来店者数は減りましたが、ECの取引が拡大しました。多くのアニメ作品の劇場公開が延期になりましたが、動画配信プラットフォーム上で追加の視聴料を課金する形で公開され、成功した作品もあります。Sentaiの「HIDIVE」も、コロナ禍が始まってから大きく伸びています。ロックダウンやステイホームの影響を受け、多くの人にとってアニメを見る一番の方法がビデオや動画配信になったのです。動画配信はアニメの市場をけん引しており、その成長には驚かされます。動画配信がアニメの今後を担うでしょう。

▲ Sentaiが運営するアニメのストリーミングサービス「HIDIVE」の画面イメージ

Q. 米国での日本アニメの需要は、新型コロナウイルス感染症の影響によりどのように変わると思いますか?

私はこの業界を約30年間見てきました。アニメの需要は必ず増すと思います。アニメの市場は数年ごとに新しいファンを獲得しながら成長しますが、昨今の様々な動画配信プラットフォームが多くの人の扉を開き、アニメを観ない人たちが観るようになってきています。普段アニメ作品のBlu-rayディスクを買わないような人でも、動画配信プラットフォーム上でたまたまアニメに出くわせば、観てみようと思うのです。このようにしてアニメファンが増えています。

Q. 動画配信サービス市場の活況はコロナ後も続くのでしょうか?

新型コロナウイルス感染症の流行が続く場合、動画配信サービス市場は拡大し続けるでしょう。そしてその市場が拡大する限り、人々はアニメを求めると思います。最近ある業界誌で、世界最大級の動画配信プラットフォームである「Netflix(ネットフリックス)」においてアニメが最大のカテゴリーの一つになっているという記事を読みました。「NBC」(*1)など様々な会社が動画配信サービス市場に参入し、私たちも作品のライセンスを提供しています。「HBO Max」(*2)もアニメに注目しています。より多くの企業が市場に参入すれば、私たちのようなライセンサーをはじめ、作品の売り手やクリエイターの方々のためになります。Sentaiは引き続き、中米、南米、欧州の英語圏で動画配信プラットフォームを展開するとともに、2022年には中東や北アフリカの国々にも拡大していきます。

(*1)NBC:米国最大のテレビネットワークの一つ。
(*2)HBO Max:米総合メディア企業「ワーナーメディア」が提供する動画配信サービスで、2020年にサービス提供開始。

Q.アニメのテレビ放送や劇場公開は、新型コロナウイルス感染症の影響によりどのように変化するでしょうか?

放送については、新型コロナウイルス感染症はあまり大きく影響しないと思います。一方、劇場公開について、昨年は米国では多くの映画館が閉館し、多くの劇場用フィルムが中止や延期を余儀なくされました。ワクチン普及や政府による(劇場に関連する)規制緩和のタイミングによりますが、復活にはまだしばらく時間がかかると思います。残念ながらコロナ禍の先行きが不透明なうちは、今後の劇場公開がどうなるかは未知数です。

Q.アニメ関連のグッズやゲームについては、米国でも市場が拡大するでしょうか?

アニメ関連のグッズについては、コロナ禍となる以前はテレビでの露出や動画配信プラットフォームとの連携が増えることが明確でしたし、量販店やショッピングモールでの販売が期待できました。しかしこのコロナ禍でショッピングモールから客足は遠のいています。実際に手に取り試着したくなるようなTシャツや帽子、リュックなどのアパレル商品については、顧客の獲得は難しくなります。ただ、ステッカーやフィギュアなどECに向いている商品もあります。実際、大手ECサイトと連携することで売上が伸びている米国のフィギュアの販売会社もあります。

▲Sentaiがライセンス事業を手がける作品「メイドインアビス」の関連グッズ

アニメ関連のスマートフォン向けゲームの市場については、もちろん今後米国でも拡大するでしょう。昨今多くのゲームがリリースされ非常に好調です。おそらく来年か再来年にはさらに多くのゲームがリリースされるでしょう。人々は安全な自宅でアニメを見たりゲームをしたりしたいのです。ゲームは今後数年間で大きな成長が見込まれる分野です。

Q. 今後、日本のアニメ制作会社とどのような取組をしたいですか?

一番は共同制作を行い、どうすればアニメの市場が成長するか、どうすれば日本のアニメの真髄を損なうことなく世界中にアピールできるのかを共に探究することです。アニメは日本の宝なのです。私たちは(アニメ作品を世界へ展開する際に)作品をありのままに伝えたいと思っています。日本のクリエイターたちの情熱や物語の本質が損なわれてしまっては意味がありません。日本のアニメ制作会社やスタジオに大事なことは、海外の国々とより密接に連携し、それぞれの市場に適応しながらも、クリエイターの情熱や精神を希薄化させることなく、作品にしっかり組み込んでいくことです。

Q. 今後、どのような作品をライセンスしていく予定ですか?

私たちは「少年」「青年」「異世界」といったキーワードのオリジナルコンテンツを常に探しています。マンガやライトノベルが原作のものだけではなく、独自のストーリーを持つクリエイターから作品が生まれることもあります。だいぶ前ですが、Sentaiの前身となる会社で扱い大成功した作品に、新海誠監督の初期作品「彼女と彼女の猫」「ほしのこえ」などがあります。Sentaiにいるチームはこれまでずっと、独創的な作品を試行錯誤で制作する努力を続け、ファンに届けてきました。

Q. 最後に、日本のアニメ業界の皆さんにメッセージをお願いいたします。

日本のアニメ業界の皆さん、どうかご無事で、そして諦めないでください。皆で一緒に頑張っていきましょう。幸運を祈ります。

(終わり)

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