2014年の創業以来、アパレル業界に大きな変革をもたらしている熊本県発のベンチャー企業「シタテル」。同社が提供する衣服生産プラットフォーム「sitateru」は、衣服をはじめ服飾雑貨・グッズなどあらゆるライフスタイル製品の企画・制作現場と、日本各地の縫製工場や生地メーカーなど、ものづくりの現場をつなぐ役割を果たしている。
クールジャパン機構は2019年、シタテルに出資した。その狙いは、シタテルを通じて日本のアパレル業界が業務を効率化・デジタル化するとともに、デザイナーのアイデアを形にしやすい環境を整えることで国際競争力を高め、海外での需要獲得につなげていくことにある。(プレスリリースはこちら)
シタテルは2020年4月にはアパレル事業者のあらゆる業務をクラウド型のシステムで支援する「sitateru CLOUD(シタテルクラウド)」の提供を本格化し、コロナ禍を経てビジネス環境が急激に変化するアパレル業界で反響を呼んでいる。今回、シタテルの創業者で代表取締役CEOの河野秀和さんに、ビジネスの現状やアパレル業界に対してシタテルができること、今後シタテルが目指す姿などについてお話を伺うことができた。(※内容は2021年6月現在)
モノを作りたい人と作る人が能動的に取引できるプラットフォームを目指して
Q.「sitateru CLOUD生産支援」に対するユーザーからの反応はいかがでしたか。
提供を始めて1年以上が経ちますが、導入社数は400社を超えました。アパレル事業者と工場をつなぐことに変わりはないのですが、これまではシタテルの担当者が介在してデータやスケジュールも含めて管理していたところを、「sitateru CLOUD生産支援」では事業者や工場が自らクラウド上で管理できるうえ、お互いがよりダイレクトにコミュニケーションできる仕組みになっています。
コロナ禍もありアパレル業界でもデジタル化の機運が高まっていることや、クラウドを使うことで生産性を高めながらコストが圧倒的に下がることから、ユーザーにとっての利用価値が確実に上がっていると感じます。また、工場側の取引機会の創出にも貢献できていると思います。例えば、大手小売事業者の工場が大小柔軟なロットでの受注ができない場合、シタテルがネットワークを持つ各地の工場にシフトできるといった機能もあります。
工場の利用が増えるとユーザーも増え、ユーザーが増えると工場の利用も増える。この循環をクラウド上で生み出すことがようやくできてきました。現在は「生産支援パッケージ」、「販売支援パッケージ」の2種類ですが、例えばD2Cの立ち上げや海外取引向けの多言語対応など、様々なパッケージや機能を追加していく予定です。クラウドはあくまで手段ですが、将来的にはアパレル事業者をはじめ様々な企業と、工場・サプライヤーの方々が互いに能動的に取引できるプラットフォームを目指しています。
廃棄されることを待つ大量の服を目の当たりにして感じた違和感と使命感
Q.もともとシタテルを立ち上げたのはどのようなきっかけだったのでしょうか。
出身地である熊本で企業の経営支援をしていた頃、市内のセレクトショップから「顧客ニーズの細分化に対応するため、数十枚〜百枚程度の少量で商品を仕入れたいがそれができない」と相談されました。調べていくと彼らと工場の間には様々な事業者や別の工場が介在し、極めて複雑な構造になっていました。
そこで工場に直接出向き、「隣町のセレクトショップがこの商品を数十枚〜百枚程度作ってほしいと言っている」と伝えたところ、実は工場には繁忙期と閑散期があり、後者であれば小ロットでの生産が可能だと言うのです。工場の繁忙と閑散のデータを正確に提供すれば、両者をうまくつなぐことができると考えたのがきっかけです。
もう一つのきっかけは、ある大手小売事業者が運営する大型の倉庫を見学する機会があり、そこには新品の商品タグが付いた服が何千着と並べられていました。どう見ても新品でまだ着られる服なのに、あと数日すれば焼却などの処分となる服です。再販ができないようなビジネスプロセスや、在庫の取り扱いに非常に大きな違和感を覚え、同時にこれは誰かが解決しなければいけないという強い使命感を抱きました。
Q. それからシタテルを創業し、事業を拡大するうえでどのような苦労がありましたか。
2015年に「sitateru」をローンチした際は1日か2日で事業者側のユーザー登録が一気に100社を超え、需要の高さを感じました。同時に工場側の開拓もしていきましたが、当時は商社からのまとまったオーダーが減るなど多くの工場が危機感を感じていた頃で、インターネットを使って新しいことをしたいという風潮もあり、割とスムーズに導入して頂いたと思います。
ただ、工場からすれば「sitateru」を利用すれば安定的に稼働ができると期待しているので、それに対してきちんとお仕事を依頼出来ているか、とても気を遣いましたね。需要と供給のどちらか一方が極端に大きかったり小さかったりしては駄目なので、そのバランスをとりながら事業を広げていくことが一番難しかったです。
Q. 今でも熊本に本社を置いていますが、それにはどのような背景がありますか。
創業前にシリコンバレーとサンフランシスコに短期間滞在したのですが、ちょうどプラットフォームビジネスが増えていた頃で、都市部を経由せずにグローバルに取引をする事例を目の当たりにしました。シタテルのビジネス思想もインターネットを使って場所や物など環境に依存しないビジネスモデルです。現状、小規模ながら海外との取引も実現していますし、これから英語や中国語、ベトナム語などシステムの多言語化も更に進んでいきます。私たち自身が本社を熊本に置きながら、グローバルにも十分に仕事ができるということが分かりました。
また、熊本は来年には「アジア・太平洋水サミット」の開催が予定されているくらい水が綺麗で豊かなところです。ただ近年は都市開発によって元々湧いていた水が湧かなくなったという話も聞くようになりました。熊本にいることでこの豊かな自然を守っていきたいと思えることも、シタテルの活動の原動力になっていると思います。
(後編へつづく)