2014年の創業以来、アパレル業界に大きな変革をもたらしている熊本県発のベンチャー企業「シタテル」。創業者で代表取締役CEOの河野秀和さんに対するインタビューの後編をお届けします。(※内容は2021年6月現在)
前編はこちらをご覧ください。
経済的な合理性と社会課題の解決は、両方あって初めて相乗効果を発揮する
Q.今、アパレル業界はどのような課題を抱えていますか。
一つは消費者の購買行動の変化に対応するスピードです。例えば、日本は全体的にEC化が遅いと言われてきましたが、やはりこの1~2年で急激に導入が進んでいます。購買経路が変わることに伴い、商品の見せ方も変えなければなりません。非常に苦しい状況にあると言われるアパレル業界ですが、ECにいち早く取り組み、リアルの店舗とECの関係性を適切に捉えている会社は伸びています。
もう一つはDX(デジタルトランスフォーメーション)の課題です。アパレル企業は服を作り売ることについてはスキルもあり、バリューチェーンも確立されていますが、それを効率的に回すことや収益構造を再設計するという点では、デジタルを活用することでしかできないことがあります。どの企業もデジタルを活用し、DXを加速させたいという考えは共通しているので、あとはそれをいかに実行するかだと思います。
Q.サステナビリティの観点から課題を感じているアパレル企業も多いのでしょうか。
私たちが提供するサービス「sitateru CLOUD 販売支援」を使って受注生産すると在庫が出ないので、当然サステナビリティの観点からも有益です。ただ、事業者の方々のニーズが先行するケースはまだ少なく、どちらかというとビジネスフローを効率化したい、無駄な時間やコストを削減したいというニーズの方が多いです。結果的にサステナブルな取組になっていることはあると思いますが、それが第一の目的になるのはこれからだと思います。
シタテルとしてはパートナー企業の皆さんとともに、2025年までに国内の衣料消化率を現状の60%から70%まで引き上げるという目標を掲げています。また、さらに業界全体が一体となって取り組めるインパクトのあるプロジェクトを提案するべく、今具体的に準備を進めているところです。
Q.事業が持つ社会性が強くなっていると思いますが、スタートアップとして収益性とどう両立させていきますか。
元々私(シタテル)の思想の中に、経済的な合理性と社会課題の解決は両方あって初めて相乗効果を発揮できるという考えがありました。創業前にGoogleやGEなどのビジネスモデルを研究した影響もあったと思います。当時は「disruption(創造的破壊)」、つまり産業を再創造し、より洗練させていくという意味の言葉が使われていましたが、いずれにしても産業を変えるためには、事業を継続(持続)することが大切で、一定の時間がかかるという覚悟はありました。
その意味では、クールジャパン機構は社会性と収益性を両立させている国内外の様々なビジネスに投資をしていますので、特にコロナの影響で時代が変化する中、先駆的にチャレンジしている投資先企業の取組について共有いただけることを楽しみにしています。
また、弊社を担当して頂いている投資戦略グループの渡邊真之助ディレクターを中心に、これまでもアパレルのみならず新市場と呼ばれる分野、例えばスポーツ団体や金融機関など数十社のお客様をご紹介いただきました。単なる資本提携関係だけではなく、事業戦略のパートナーとしてご一緒させていただいていることには非常に感謝しています。
人々のクリエイティブな力や社会を良くするためのアイデアを具現化するきっかけに
Q. 今後、シタテルをどのような会社にしていきたいですか。
先ほど物を作りたい人(ディマンドサイド)と物を作る人(サプライサイド)が能動的に取引できるプラットフォームを目指すとお伝えしましたが、最近は両者の関係性が複雑化し、取引の自由度が高まっているように感じます。例えば、前者は単に発注するだけではなく、自らのデザインやIP(知的財産)を他社に提案できるようになりましたし、後者は単に受注するのではなく、自らD2Cブランドを立ち上げたいと思うようになってきています。単にディマンドサイドとサプライサイドをつなぐだけでなく、全方位的に取引を生み出し、人々の「共創」を支えるプラットフォームを確立していきたいです。
私たちは創業以来のビジョンに「-IMAGINATION-人々の想像力を解放し、人類の豊かな未来をつくる。」を掲げてきました。衣服に限らず、何かを作る、想像する行為は、決して特別な才能を持った人だけのものではありません。シタテルを通して、人々のクリエイティブな力や社会を良い方向に導くためのアイデアが具現化され、国内のみならずグローバルにも羽ばたけるきっかけになれたらとても嬉しいですね。
(終わり)