「楽しいね!を、世界中の日常へ」―。名古屋発のベンチャー企業「ワンダープラネット」はその言葉を“ミッション”に、世界に向けてスマホゲームを発信している。看板タイトル「クラッシュフィーバー」は全世界1,300万ダウンロードを突破、日本だけでなく台湾・香港でも多くのユーザーを獲得している。他にも海外配信中の複数のタイトルがあり、同社の海外売上比率は35%とスマホゲーム業界では異例の数字を誇っている。
クールジャパン機構は2019年、日本のコンテンツホルダーとの協業を積極的に進めるワンダープラネットが、日本コンテンツの魅力を世界に伝えるプラットフォームになると考え、同社に出資した(プレスリリースはこちら)。そして2021年6月、ワンダープラネットは東京証券取引所マザーズへ新規上場した。
単なるスマホゲームの開発・運営会社ではなく、名古屋から世界の人々にエンターテインメントサービスを提供する会社になる―。今回、創業者で代表取締役社長CEOの常川友樹さんにインタビューし、ワンダープラネットが目指すビジョンについてお話を伺った。(※内容は2021年8月現在)
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常川 友樹 (つねかわ ともき)
ワンダープラネット株式会社 代表取締役社長CEO
愛知県名古屋市出身、1981年生まれ。大学中退後に上京し、モバイルコンテンツ企業の執行役員を経て、2004年に東京にて最初の起業として、ネットメディア・コンテンツ企業を8年間経営。その後、2012年に名古屋に戻り、二度目の起業として、スマホ向けゲームの開発運営を主力事業とする、ワンダープラネット株式会社を設立。
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上場後も会社の本質は変わらない―「楽しいね!を、世界中の日常へ。」を追求するということ
Q. 創業したのはどのようなことがきっかけでしたか。
元々、東京でインターネットメディアやモバイルコンテンツの会社を8年間経営していました。事業自体は順調でしたが、ちょうどスマホが普及してきた頃で、何か新しいチャレンジがしたいと思っていました。ふと出身地の名古屋を見ると、私がそれまで携わってきたITやコンテンツに関わる会社がほとんどないことに気づき、名古屋に世界で活躍する会社を作れば雇用も含めて地元に貢献できる、それこそ起業家としての大義であり、残りの人生を懸けるほどの価値のあることだと考えました。
そこで、当時経営していた会社の一部門を独立させる形で、名古屋にワンダープラネットを立ち上げました。“最後発のネイティブ・スマホゲームの会社”と言われるほど創業のタイミングは遅かったと思います。ただ、名古屋にはゲーム開発は未経験ながらも、優秀な人材がたくさんいると感じていたので、そのような優秀な人材を集めることさえできれば、後発だとしても成果は出せるという考えはありました。
Q. 今回の上場で、地元へ貢献するという目標に着実に近づいているように見えます。上場した率直な感想はいかがですか。
上場してもやるべきことは本質的には変わりません。私たちの“ミッション”である「楽しいね!を、世界中の日常へ。」を実現するために、シンプルに私たちらしいものづくりを追求していきたいと考えています。
一方で対外的な知名度等は向上していると感じますので、今後人材採用でもポジティブな影響があるかもしれません。東京と名古屋の両方で会社を経営して思うのは、地方で会社を作り育てるのは時間がかかりますが、その分人材の定着も多く、地域に根付いた強い組織になるという点です。ワンダープラネットもこの10年で強い組織になったと思いますし、上場を経てこれからも益々その強さを積み重ねていけるのではと感じています。
「1%の改善」をひたすら続けること、それがヒット作を生み出した最大の理由
Q.これまでを振り返って、会社の成長の転機となったのはどのような出来事でしたか。
やはり2015年に4作目である「クラッシュフィーバー」がヒットしたことが大きいと思います。「クラッシュフィーバー」は、我々の看板タイトルとして約6年運営を続けていますが、それまではヒット作もなく、資金調達してゲームを作ったものの、軌道に乗らず失敗するということを繰り返していました。ただ、私たちの”Value”の一つに「1%を追い続けよ。」という言葉があります。失敗したら何が原因かを考え、次に生かす。そうした「1%の改善」をひたすら続けたことが、4作目でのヒットにつながりました。
ゲーム業界では何がヒットするかわからないとよく言われています。私たちとしては、今でも一つひとつ着実に改善を積み重ねており、常に「次にリリースする最新作が代表作になる」という確信のもとに開発を行っています。失敗と改善を繰り返しながら真摯にものづくりに向き合い続けられるのは、古くから製造業が盛んな名古屋の文化の影響を受けているからかもしれません。
Q. クラッシュフィーバーは、台湾・香港を中心に多くの熱烈なファンがいますね。どのようにファンの心を掴みましたか。
クラッシュフィーバーはリリースした当時から、海外の方からも世界観が独特だと言われていました。真っ白な画面の仮想空間の中で、近未来的なパズルで遊ぶというコンセプト自体が珍しく、BGMやキャラクターなども受け入れられたようです。2016年には台湾や香港のApp Storeのセールスランキングで第1位を獲得しました。
当時、台湾や香港などでユーザーと交流するオフラインイベントを開催し、私も実際に参加しました。約1,000人が入るイベント会場をクラッシュフィーバーのファンで埋め尽くし、ゲームで使われているBGMを会場内に響き渡らせ、皆でゲームをプレイしました。コロナ禍ではそれもできなくなり、寂しく思います。ファンとの交流はオンラインの形で続けていますが、あの熱狂的な雰囲気はお客様と同じ場所にいるからこそ味わえるものです。一日も早く現地でイベントを開催できる日が戻って来てほしいと思います。
(後編に続く)